仙台高等裁判所 昭和24年(を)597号 判決 1950年4月18日
被告人
立石ユリ
主文
原判決を破棄する。
本件を靑森地方裁判所八戸支部に差し戻す。
理由
(イ)本件起訴状によれば公訴事實として「被告人は傳染のおそれある性病(梅毒)を患つているに拘らず昭和二十四年六月四日及同月五日に上北郡大三澤町上久保三一C一〇六號室及工藤組宿舍等において氏名不詳の米兵六名に対し賣淫したものである」と記載し罰條として性病予防法第二十六條を挙げているし、また原判示事實は「被告人は少年であるが」と附加し、日時を「六月四日から翌五日頃迄の間」とした外右起訴状記載の事實と同一である。しかし性病予防法第二十六條の罪は、連続犯の規定の廢止後においては、少くとも賣淫の相手方が複数であるときは、その異るに從い、それぞれ独立の一罪を構成するもとの解すべきであり、これを包括して單純なる一罪を構成するものとみるべきでない。
右起訴状の記載によれば、連続犯の規定の廢止後にかかるものであることが明らかであり、賣淫の相手方も六名とあるから、被告人の複数の犯罪行爲を起訴したものであると認めなければならない。しかりとすれば右起訴状の日時、場所の記載方法によつては審判の対象たる各個の行爲が他の所爲と區別しうる程度に明確でないから、原審においては檢察官に対し、起訴状記載の各個の行爲につき、日時、場所を明らかにし、一の行爲を他の所爲から區別し得るよう釈明を求め、審判の対象を明確ならしむべきであつたにもかかわらず、記録に徴し何等その釈明をした形跡が認められない。また原判示事實摘示においても、その各個の行爲の内容日時、場所等を明らかにすることにより一の行爲を他の行爲より區別し得る程度に特定し、少くとも各個の行爲に対し法令を適用するに妨げなき限度に判示しなければならないのにかかわらず(昭和二三年(れ)第七六三號同二四年二月九日最高裁判所大法廷判決參照)前記の判示によつては各個の行爲に対し法令を適用すべき基礎を看取しえない。
前記の釈明を怠つた訴訟手続の違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、また原判示は判決の理由を附しない違法があるといわねばならない。
(ロ)次に原判決は原判示事実認定の証拠として、被告人の公廷の判示同旨の自供と医師の証明書を挙げている。しかして右の医師の証明書はその内容の重要な部分が英文を以て記載されているのであるから、裁判所において右英文を解するが爲に飜譯人をして飜譯させない場合においても、これが証拠調を爲すにはその提出者において飜譯して朗讀するか、或は裁判所自ら飜譯の上朗讀すべきものであることは裁判所法第七十四條の「裁判所では日本語を用いる」との規定に徴し明らかである。
しかるに原審第一囘公判調書によれば右医師の証明書を裁判所書記官補に朗讀せしめたとの記録あるのみで、飜譯して朗讀した形跡が認められない。從つて右証明書は適法な証拠調をしたものといいえない。しかしてこの訴訟手続上の法令違反も判決に影響を及ぼすこと明らかであるといわねばならない。